シルク・ハンティングの伝説 #055

俗に、「世は歌につれ、歌は世につれ」といいます。

その時代その時代に合った歌が流行る、という意味なんでしょう。
だからこそ、「流行歌」なのでしょう。

それぞれの時代の空気にふさわしい歌だからこそ、人びとに愛唱される。
たしかにその通りなのですが、その一方でリヴァイヴァルということもあります。
昔に流行った歌がもう一度蘇る。

例としてふさわしいのかどうか、『君恋し』。

これは昭和のはじめの流行歌。
その頃、ボードビリアンとして有名だった、二村定一が歌って人気いなったものです。
でも、『君恋し』は、昭和三十六年にも、ヒット。
フランク永井が歌って。
また2008年には、ジェロも歌っています。

♬ 宵闇せまれば…………。

歌詞がすべて文語調なのも、そのためなのです。
歌が時代で変わるのなら、言葉も時代によって変わります。

たとえば、「スコッチ」。

今、「スコッチ」といえば、十人が九人までウイスキーを想起するでしょう。
スコッチ・ウイスキーを。

ところが明治の時代の「スコッチ」はまず例外なく、トゥイードだったのです。

スコッチ・トゥイードを略して、「スコッチ」。

たとえば明治三十二年に発表された、『鬘下地』を読むと、何度も「スコッチ」が出てきます。
『鬘下地」は、小栗風葉の書いた小説。

「媚茶スコッチの鳥撃帽子を阿彌陀に戴きて………」。

これはほぼ原文通りの表記なのですが。
「媚茶」という表現が合ったんでしょうね。
それはともかく、ここでの「スコッチ」がトゥイードを指しているのは、間違いないでしょう。
小栗風葉はこの文章の少し後に、こんな風にも書いています。

「絹猟虎のホック掛けの帽子を眞深に冠れる男の…………」

「絹猟虎」とはいったい何でしょう。

さあ。明治には、ラッコの毛皮はよく使われたらしい。
たとえばコートの襟にラッコをあしらうとか。
そしてひとつの想像ですが、絹を使ってラッコの毛皮風に仕上げた素材ではなかったでしょうか。

では、「ホック掛けの帽子」とは。

これも想像ですが、やはりハンティングの一種でしょう。
イア・フラップがあって、ふだんはクラウンの上で、スナップなどで留めておく式の。

もしそうであるなら、「絹猟虎のホック掛けの帽子」、リヴァイヴァルさせようではありませんか。

さしづめ「シルク・ハンティング」でしょうか。