ヤングマン・ハットの伝説 #058

石坂洋次郎の小説に、『若い人』があります。

『若い人』はひと言で言って、学園物です。
青春小説でもあります。
そしてまた、石坂洋次郎の出世作でもあります。

舞台は、とある北の町となっています。
でも、石坂洋次郎は青森、弘前の出身ですから、おそらくは弘前が背景なのでしょう。

ミッション・スクールの先生、間崎慎太郎が主人公。
二十八歳の、熱血青年という設定になっています。
『若い人』はいつの時代にも人気があって。
それというのも、何度も映画化されているからです。
何度も映画になるくらいですから、TVドラマは数えきれないほどでしょう。

1952年にも『若い人』は映画になっています。
市川 昆監督、池部 良主演。
つまり池部 良が、間崎慎太郎に扮するわけです。
この時、市川監督は、池部 良に言った。

「良ちゃん、『若い人』の先生ね、ソフト帽をかぶってくれへんか」

池部 良著『江戸っ子の倅』に出ています。

そう言われた池部 良はどうしたのか。
銀座の「大徳帽子店」に行く。
今はありませんが、1952年には銀座でも老舗の帽子店だったのです。

「大徳帽子店」では奥から、上等の、ライト・グレイの帽子を持ってきて、池部 良に勧める。
結局、池部 良はその帽子を被って『若い人』の間崎先生を演じたのです。

大徳帽子店の番頭はなんと言ってその帽子を勧めたのか。

「池部さん、これだけの帽子は、池部さんにしか似合いませんよ。」

うーん、うまいこと言いますね。

これぞ、「ヤングマン・ハット」と、呼ぶべきでしょう。