ヨシエ・ハットの物語 #057

『荒城の月』という歌がありがとうございます。

小学校の音楽の教科書にも載っているくらい、有名な歌です。
土井晩翠の作詞、瀧廉太郎の作曲。

♬ 春高楼の 花の宴………とはじまって。
二番目の歌詞に、♬ 鳴きゆく雁の ………と、出てきます。

『荒城の月』を歌った人に、藤原義江がいます。

藤原義江はレコードを吹き込む時、「飛びゆく雁の」と歌った。
つまり歌詞は「鳴きゆく雁の」。
レコードのほうは、「飛びゆく雁の」になってしまったわけです。

学校の先生が「鳴きゆく……」で教えようとすると。
レコードで憶えている生徒は、「飛びゆく……」だと言って譲らない。
ある小学校の音楽の教師が藤原義江に連絡を取って。
「ぜひ生徒の前で、ご本人が歌って頂きたい」となった。
藤原義江は責任を感じていることでもあり、その学校に行った。

「これから正しい『荒城の月』を歌います。」

♬ 春高楼の………。

藤原義江がすべて歌い終わると、拍手喝采、大爆笑。
藤原義江はなんと、「飛びゆく……」で歌ったんだそうです。

藤原義江は日本人のオペラ歌手としては、空前絶後の洒落者でした。

戦前の藤原義江が愛用したのが、ソフト・ハット。センター・クリースのソフト帽。
でも、フロント・ピンチはなし。
センター・クリースだけで、ぜんぶ鍔を下げてかぶる。
「オールダウン」とも「クローシュ」とも呼ばれるスタイル。
色はグレイで、ハット・バンドの幅が広い。
実に美しい帽子です。

なんとか「ヨシエ・ハット」の名前で、復活できないものでしょうか。