ケアフリー・ハットの伝説 #062

帽子はふつう頭に被るものであります。

昔は、「冠る」とも言ったものです。
あるいは、「載せる」とも。

でも、この「載せる」は少し誤解されているのではないでしょうか。
それというのも、帽子のほんとうの魅力は、帽子と顔とが完全に一体となった時にあらわれるものですから。

帽子を単に、頭に乗せただけではぜったいに「一体化」はしません。
つまり帽子を被りこなしたことにはならないのです。
頭に、顔に、いかにフィットさせるかが、帽子の唯一のコツなのです。
いずれにしても帽子を被る時にはこの、「一体感」、「フィット感」を思い出してくださいね。

帽子を被ることの反対に、「脱ぐ」作業があります。

帽子はサングラスと似たところがあって。
サングラスを外す瞬間に美があらわれる。
これと同じように、帽子の脱ぐ瞬間の仕種にも美しさが漂うものであります。
帽子を脱ぐ時、ほんの少しだけ、鏡の前にいる気分になりましょう。

さて、脱いだ帽子をどうするのか。

1960年代にあるメーカーが「ミスター・ケアフリー」という名前の帽子を売り出したことがあります。
「ミスター・ケアフリー」ですから、脱いだ帽子を気にする必要がありませんよ、ということなのです。
「ミスター・ケアフリー」は、脱いだ後の帽子をくるくる巻いて、ポケットにしまっておける帽子だったのです。

フェルトはもともと自由自在の、優れた素材で、形の崩れない特性があります。
ただ、フェルト以外の副素材は別としての話ですが。
極上のフェルトを使って、副素材に工夫すれば、「くるくると巻いてしまえる」帽子は、可能なのです。
それ以降の多くの「トラヴェラーズ・ハット」もその流れに沿ったものだったのです。

それはともかく、「ケアフリー」はなかなか魅力的な言葉ですね。

なにかひとつくらい自分なりの「ケアフリー・ハット」を持っていたいものです。