美少年帽の伝説 #063

この世でもっとも多く帽子が出てくる小説。

もしもそんなギネス・レコードがあったなら、たぶん、『失われた時を求めて』が第一位に選ばれるでしょう。
『失われた時を求めて』は、もちろんフランスの作家、マルセル・プルーストの書いた長篇。
いや、長篇ではありません。
大長篇。『源氏物語』と較べてみたいほどの長篇であります。

『失われた時を求めて』は大長篇であると同時に、二十世紀最高峰の傑作とも言われています。
つまり質も量も最高といって過言ではありません。
これはたまたまの話ではありますが、作者のマルセル・プルーストはたいへん服装に関心の深い人物でもあったのです。

『失われた時を求めて』は見方を変えれば、ファッション小説でもありましょう。
少なくとも二十世紀はじめの、フランス上流階級のおしゃれぶりが、つぶさに語られていることは間違いありません。
まあ、そんなわけで、『失われた時を求めて』には、多くの帽子が出てきます。たとえば。

「ところが今や、どの婦人帽もとてつもなく巨大で、おまけに果実や花や小鳥に覆われている始末である。」

1910年頃の巴里では、大仰な、絢爛たる帽子が流行ったのでしょう。
さて、ここからは半ば冗談でもありましょうが。

その時代、「美少年帽」とでも呼ぶべき帽子があった。
大きな、大きな帽子。
あまりに帽子が大きく、また装飾的なので、とてもひとりで被っては歩けない。
帽子の後ろでそれを支える人がいなくてはならない。

どうせ帽子係が必要なら、美少年に限る。
左右にふたりの美少年。
煌びやかな制服を着せて、美少年に帽子係をさせる。

…………、そんな話もあったようですね。

もし、ギネス・ブックが「世界一贅沢な帽子」をえらぶなら、この「美少年帽」になるかも知れませんが。