チェーホフ・ハットの物語 #059

『三人姉妹』という演劇があります。

1900年に、アントン・チェーホフの書いた戯曲。
日本はもちろん、世界中で愛されている戯曲でもあります。

オリガ、マーシャ、イリーナ。長女、次女、三女。
それぞれの人生を描き分けた名作です。『三人姉妹』は、1901年に「モスクワ芸術座」で初演されて、大成功。
それはアントン・チェーホフの個人生活にとっても成功でありました。
『三人姉妹』の中で、マーシャの役を演じた女優、オリガ・クニッペルと結婚してもいるからです。

『三人姉妹』、『かもめ』、『ワーニャ叔父さん』、そして『桜の園』。
これをチェーホフ四大戯曲と呼ぶんだそうです。
が、チェーホフは戯曲の他におびただしい数の短篇を書いてもいます。

チェーホフはたしかに多くの短篇を書いた。
そしてそのいずれの短篇もが、傑作。
これは珍しいことかと思われます。
ほとんど書きとばしたのではないか、と感じほどの、多作。
そのひとつひとつが粒揃いなのです。
「短篇の名手」と呼ばれるのも、当然でしょう。

アントン・チェーホフ1886年に発表した短篇に、『三等官』があります。
物語の時代背景は、1870年におかれているのですが。
もし「私」がチェーホフ自身だとするなら、十歳頃の想い出とも読めるのですが。
『三等官』には、「私」の伯父さんであるイワンが登場します。
イワンは偉い役人で、洒落者として描かれています。

「純白の絹の上下に、純白の帽子をかぶった、小柄な、痩せぎすの、おしゃれ男だった。」

「純白の帽子」は、どんなスタイルなのでしょうか。

これとは別のところで、「つばのある………」と、出ていますから、たぶんハットなのでしょう。
1870年頃のロシアには、「純白の」ハットがあったのでしょう。
着ている服に引きづられてしますのですが、もしかして、絹。
シルクの、ブリムのある帽子は、まさに夢物語です。

とりあえず「チェーホフ・ハット」と命名したいものです。