カーン・ハットの物語 #060

人には誰しも、郷愁ということがあります。

ちょっと恰好つけるなら、レトロスペクティヴでしょうか。
あるいは、「温故知新」でしょうか。
理屈はともかく、はるか遠くに過ぎ去った時代を懐かしく想う心であります。

はるか遠く過ぎ去った時代のひとつに、中世があります。
「中世」かなり広い意味あいがあります。
だいたい1200年を挟んでの、三百年ほどでしょうか。

中世に盛んだった帽子に、「シャプロン」 chaperon があります。

シャプロンは「頭巾」に似た帽子のこと。
おそらくフランス語の「シャッポー」とも関係のある言葉なのでしょう。

中世のシャプロンにもいろんなスタイルとデザインとがありました。
が、そこに共通していたのは、詰物。
シャプロンの内側に詰物があって、その詰物によって形を整えていたのです。
この詰物はひとつには防寒が目的であったでしょう。
そして、もうひとつには、帽子のスタイルを容易に仕上げることができたから。

しかし中世の誰もがシャプロンだったわけでもありません。

たとえば、1434年に、ヤン・ファン・エイクは、『アルノルフィーニ夫妻像』を描いています。
この二人のうち男性は、臼型のフェルト帽子を被っているのです。
臼をあえて西洋風に言いますと、「カーン」。
ややクラウンとブリムとが、相似に関係にもなっています。

とにかく臼を想わせる帽子なので、「カーン・ハット」。

これも想像ではありますが、フェルトの内側に薄い詰物をして、型を整えているのかも知れませんが。