キキ・ハットの伝説 #066

フジタには、泣かされてしまいます。

これだけでは、なにのことやらさっぱりわからないでしょう。
少し説明させていただきます。

フジタはもちろん、藤田嗣治。
あの「乳白色」の名画の作者。
ただし今やフジタの「乳白色」は個人の手には届かないほどの値になっているのですが。

フジタは画家です。
が、その一方で随筆も遺しています。
そのフジタの随筆が名文で、つい泣かされてしまうのです。

フジタが1920年頃に描いた『寝室の裸婦キキ』があります。
フジタの出世作でもあります。
この『寝室の裸婦キキ』について、フジタ自身が書いているのです。
『世界の女性』と題して。

1920年頃。『寝室の裸婦キキ』は大きな話題となって、すぐに売れた。
8,000フランで。
その時代の8,000フランは大金だったという。

フジタはモデルになってくれたキキになにかお礼がしたいと、思って。
フジタはキキに「服を買ってきなさい」と言って、300フランを渡した。
やがてキキは戻ってきて。上から下まで、光り輝く服を着ていた。
「80フランも遣ったのよ」と、キキは嬉しそう。

でも、帽子がなかった。

で、フジタはキキを連れて、百貨店に。
「オーボン・マルシェ」へ。
キキは「オーボン・マルシェ」で、店中の帽子を試着。
とんどすべての帽子を試したキキは最後に、

 

「これにしてもいいかしら?」。

 

それは2フランの、飾りのないストロー・ハットだった。

これを読むといつも、涙があふれてくるのです、なぜか。