ウエールズ・ハットの物語 #063

昔あって今ないものに、幻燈があります。

いや、「ない」と断言してよいのかどうか、現在ではほとんど観る機会がありません。

幻燈は写真に似ています。
が、写真そのものではありません。
一枚一枚のフィルムに裏から光をあてて、スクリーンに拡大して観せる遊びだったのです。

十九世紀末の英国では、「マジック・ランターン」の名前があったという。
マジック・ランターンを日本語にして、「幻燈」なのでしょう。

今のようにTVのない時代には、「マジック・ランターン」は大きな娯楽だったものと思われます。
マジック・ランターン、つまり幻燈があったということは、もちろん星の数ほどの「原画」があったことになります。
幻燈そのものは廃れたとしても、「幻燈原画」の蒐集家がいるんだそうです。

たとえば、シャーロット・フィールや、ジェイムズ・R・ライアンといった人たちのことです。
フィールとライアンは共著で、『失われた世界の記録』を刊行しています。
『失われた世界の記録』の中には、「ウエールズ原画」が含まれているのです。
1890年代の、英国、ウエールズ地方での様子。

「ウエールズ原画」には、三人の美しいウエールズ女性が写っています。
部屋の中で、紅茶を飲んでいる様子。
上から下まで、その時代のウエールズ伝統衣裳に身を包んで。

さて、その帽子が、素晴らしい。
三人が三人とも、同じ「ウエールズ・ハット」を被っています。
1890年代のウエールズでは、部屋の中でも「ウエールズ・ハット」が常識だったものと、思われます。

ウエールズ・ハットはシルク・ハットに似ています。

ぴかぴか光っています。
鍔は広くて、まっすぐ。
クラウンはとても高くて、先細りになっているのです。
どこか、東洋的でもあります。
優雅です。

いつの日か、きっとウエールズ・ハットが流行ることでしょう。