エックス・ハットの伝説 #068

松竹梅という言い方があります。

たとえば食堂に入って、幕内弁当を食べようとして。
「幕内弁当ひとつ!」と、注文する。
けれども献立表を開いてみると、「松」、「竹」、「梅」とあって、微妙に値段が違っていたり。
これを、「松竹梅」と言ったものです。

今でも鰻屋に行きますと、「上中下」があったり。
いや、そのまた上に「特上」があったりするものです。

昔、山下 清という天才画家がいて、この人の口癖が、「兵隊の位で言えば………?」というものでした。
その人物が大将なのか、中将なのか、少将なのかと、言ってくれたら話が早いというものだったのですが。

兵隊に位があるように、帽子にも「位」があります。
少なくとも1940年代までは「位」がありました。
主に、ソフト・ハットに於いてでありましたが。
その「位」のことを、「Xレイティング」と呼ばれたものです。

ソフト・ハットの材質はまず例外なく、フェルトで、フェルトにもピンからキリまでがあります。
そこでフェルトの質によって、等級分けをした。
それが、「Xレイティング」なのです。
ごく簡単にいってXの数で等級が決まったのです。
もちろんXの数が多いほど、上質。

1Xから、100Xまでがありました。
1Xは、通常のウール・フェルトによるソフト・ハット。
5Xは、もうかなりの高級品。
Xの数が増えるほど、ビーヴァーの混入率が高いなる。

仮に100Xなら、極上のビーヴァー100%によるソフト・ハット。
今の値段に直すなら、100万円クラでしょうか。

では、Xの数が増えると、どうなるのか。
Xの数が増えるほど、しなやかに。

単に柔らかいというのではなくて、「しなやか」。

ちょっとキザに申しますと。
「ビロードの手袋を嵌めた鉄の指」。

まあ、なにごとにも、「位」があるという話なんですが。