モンモランシー・ハットの伝説 #078

怪盗紳士といってすぐに想い出すものに、アルセーヌ・ルパンがあります。

「アルセーヌ・ルパン物」は、モーリス・ルブランの作であるのは、言うまでもないでしょう。

モーリス・ルブランは最初、主人公の名前を、「アルセーヌ・ロパン」とした。
けれどもアルセーヌ・ロパンは実在の人物だったので、急遽、「アルセーヌ・ルパン」に変えたんだそうです。

当時、フランスでも「シャーロック・ホームズ物」が人気で。
モーリス・ルブランとしては、なんとかそれに優るものを書きたいとの気持があったらしい。
「アルセーヌ・ルパン」が、「シャーロック・ホームズ」にヒントを得ているのは、たぶん本当なのでしょう。

では、イギリスに「怪盗紳士」はいないのか。
それが、いるんですね。
『怪盗紳士 モンモランシー』。

英国の女性作家、エレナー・アップデールの、創作。
あるいは時代物ミステリともいえるでしょうか。
『怪盗紳士モンモランシー』の時代背景は、十九世紀後半になっています。

その意味では、フランスの「アルセーヌ・ルパン」と、イギリスの「モンモランシー」は、いい勝負ではないでしょうか。
作者のエレナー・アップデールは、1953年に、南ロンドンの、カンバーウエルに生まれています。
が、実に十九世紀の風俗にもお詳しいのです。

たとえば、モンモランシーがオペラを観に行く場面があって。
モンモランシーはそのオペラのために、服装と帽子とを誂える。

「オペラ用の特別なお帽子がございます。折り畳んで座席の下に収納できるようになっているんです」。

洋服屋の「ライオンズ」はそんな風に教えてくれる。

そしてさらに、オペラ・ハットなら、「リグビー」の店に行きなさい、と。
もちろんモンモランシーは、「リグビー帽子店」で新しいオペラ・ハットを註文するわけですが。

『怪盗紳士 モンモランシー』を読むことで、その時代にはオペラ・ハットをしまっておくための場所が、椅子の下にあったことが分かります。
また、時と場合によっては、前の席の背に収納ができることもあったらしいのですが。

クラッシックといえばクラッシック、優雅といえば優雅。

せめてオペラ・ハットを眺め、十九世紀の風俗を偲ぶとしましょうか。