クシダ・ベレーの物語 #078

山登りがお好きだった作家に、串田孫一がいます。

日本の作家としては珍しいくらいに、良家の出で、それでちっとも偉ブラなかったそうですから、ほんとうに立派なお方だったのでしょうね。

串田孫一はまた趣味の広い人で、とにかく好奇心旺盛だった人物。
昆虫が好きで、珈琲が好きで、手先が器用でもあって。
その一方で、フランス文学の渡辺一夫先生の弟子でもあったのですから、参ったしまいます。
串田孫一は渡辺一夫先生を尊敬するあまり、筆跡をほとんどそっくり真似ることもできたそうです。

ものひとつ串田孫一が熱中したのが、登山。

ある時、鳥甲山に登った時。地元のマタギから、腐った倒木に火をつける秘術を教わって、会得。
串田孫一は、濡れた倒木に火を灯すことができたらしい。

串田孫一は戦後まもなくの頃、どこからか「珈琲糖」を仕入れてきて。
それは一見、角砂糖みたいで、中に珈琲の粉が。
これに湯を注ぐと、たちまちコーヒーらしきものが。
山での串田孫一はそんなコーヒーも飲んだようです。

串田孫一の愛用品に、黒いベレーがありました。

街でも山でも、ふらっとベレーを被ってあらわれた。

それはやや小型のベレーで、頭の上に載せると、完全な半球型になってくれる。

小型で、半円球のベレー。

とりあえず「クシダ・ベレー」と名づけましょうか。