盛装帽の伝説 #082

カステラの話をさせて頂きます。

どうしてカステラの話なのか。
カステラが嫌いというお方は、まずいないからです。
もちろん私も大好き。

よく「スポンジ・ケーキ」といいますが、あれだってとどのつまり、カステラを土台にしたケーキなんですね。
つまり知らず知らずの間にカステラを食べていることだってあるわけです。

カステラを一瞬にして「大人の味」にする方法、ご存じですか。

それはカステラにブランデーを垂らすこと。

好みの厚さにカステラを切って。
好みの皿の上に静かに、寝かせる。
寝かせた上から、好みの量のブランデーをかける。
いわば「ブランデー・カステラ」、これはまことに美味いものであります。

それはともかく。
カステラはたいてい箱に入っています。
たとえば人様に差し上げる場合、むきだしで「ハイヨ!」ということはありません。

カステラははじめから、薄紙に包まれています。
薄紙に包んだカステラを、さらに紙箱に収めて。
さらにはそれを桐の箱に入れてあったりします。
桐箱に入って、幾重にも包まれたカステラを開ける時、いかにも極上品だなあ、ということが伝わってきます。

人のおしゃれもこのカステラと似たところがあるのではないでしょうか。
身体を包んで、包んで……………。

昔の紳士淑女は必ず手袋を嵌めたものです。

季節に関係なく。
手をむきだしにしないために。
手をむきだしにするのは、たいへん失礼なことだったのです。

これは帽子も同じことで、男であろうと女であろうと、頭をむきだしにするのは、無礼極まりないことだった。
だから紳士淑女はみな帽子をかぶったのであります。

アメリカの作家、ジェイムズ・M・ケインの小説に、『カクテル・ウエイトレス』があります。
この中に、こんな文章が出てきます。

「かさばらない小さなヴェルヴェットの帽子で、帽子があればそれだけでフォーマルな装いになる。」

これは、ジョーン・メドフォードという女主人公のつぶやき。

「帽子があればそれだけでフォーマルな…………」。

そうなんですね。

帽子はそれ自体、「正装帽」であり、「盛装帽」であるのです。

ところで。

「小さなヴェルヴェットの帽子」、「ジョーン・ハット」と名づけて作ってみましょうか。