アンテロープ・ブラシの伝説 #121

帽子が似合うのか、似合わないのか。

これは大きな問題であります。

自分に似合う帽子があることは、幸福。
似合わない帽子は単なる印象上の損失であります。

ところが、どんな帽子をかぶっても似合う男の話があります。
『詐欺師 フェーリクス・クルルの告白』に。
もちろん主人公、フェーリクス・ククルがそれなのですが。
もっともフェーリクス・ククルには、若き日のトーマス・マンの姿が投影されているようですが。

ただし『詐欺師フェーリクス・ククルの告白』では、服装全体に話が及んでいるのです。
どの国の服装をしても似合う、と。
服装が変わることは、帽子が変わることでもありまして。

「膝下丈の靴下と底に鋲を打った靴を履き、緑の帽子にカモシカの毛を飾ったドイツの山岳地方の農夫であれ……………………。」

トーマス・マンは『詐欺師フェーリクス・ククルの告白』の中に、そのように書いています。

もちろん、チロル地方の風俗に触れているわけです。
ということは、あのチロリアン・ハットに添えられるブラシは、カモシカ、つまりアンテロープの毛が本来の姿なのでしょう。

アンテロープ・ブラシをあしらった、伝統のチロリアン・ハットをかぶってみたいものです。