直哉帽子の伝説 #127

少し古い話をいたしましょうか。

時は、昭和二十年代のはじめ。
所は、熱海。
登場人物は、志賀直哉。

志賀直哉は、「小説の神様」とさえ謳われた作家であります。
そういえば、志賀直哉には、『小僧の神様』という名作がありますね。
『小僧の神様』は国語の教科書にも出ていたくらいですから、たぶんお読みになったことがおありでしょう。

その志賀直哉が、熱海の町を歩いていた。
お供するのは、福田蘭童。
福田蘭童は、尺八の名人。
天才画家、青木 繁の息子。
以前「クレージーキャッツ」にいた、石橋エーターローのお父さん。

戦後間もなくは、GIが威張っていた時代で。
ジープに乗ったGIが向こうからやった来たと思ったら、志賀直哉愛用のソフト・ハットを奪っちゃった。

志賀直哉は和装であろう洋装であろうと、必ず舶来上等のソフト帽を頭に戴いた。

そのことを知っている福田蘭童は、志賀直哉のソフトを取り返す。
これは福田蘭童著の随筆、『志賀さんの横顔』に出ていますから、ほんとうのことなのでしょう。

福田蘭童は、「英國製」と書いています。
たぶん志賀直哉は戦前に買い求めた帽子だったのでしょう。

一度でいいから、人も羨む高級帽子をかぶってみたいものですね。