『帽子のオアオア物語』Vol.18 モーガン・ファー・キャップ
まずはじめに申し上げますが、「モーガン」Morg an は英国車の名前です。
「モーガン」と銘柄の帽子があるわけではありません。
では、どうして「モーガン・ファー・キャップ」なのか。ここから話がはじまるのであります。
モーガンは英国車なのですが、基本的に手作業で仕上げられます。今日の大量生産の、流れ作業の自動車とはほぼ正反対の車といってよいでしょう。
たとえば、「モーガン・プラス4」だとか、「モーガン・プラス6」だとか。
はじめて「モーガン」を見た人は、「あっ、クラッシック・カーだ」と思うでしょう。仮にピカピカの新車であっても。
1930年代からモデル・チエンジをほとんどしていないのですから、当然でもあるでしょう。
以前、ミック・ジャガーや、ブルジッド・バルドオが愛車にしていました。まあ、奇人変人にふさわしい車でもあるでしょう。
このモーガンを四十七歳で買ったのが、作家の森 瑤子。それも免許取り立てで。
モーガンはすべて手動で、少なくとも、免許を取ってすぐに買う車ではありません。
これ一つとっても、森 瑤子は奇人変人の資格ありそうです。
森 瑤子はモーガンを運転するのに、黒の毛皮帽をかぶったそうですね。それで、「モーガン・ファー・キャップ」となるわけですが。
たしかに森 瑤子は日本での数少ない「ハット・ドレッサー」でもありました。外出にはまず例外なく、帽子を。
帽子を上手にかぶることは、「正装感」を高めるなによりも秘法なのです。
帽子のかぶり方は、モーガンの運転に似ていると思います。
モーガンは充分にエンジンを温めてから、ギアを入れる。それもダブル・クラッチで、ゆっくりと。
モーガンにはモーガンのコツがあるように、帽子には帽子のコツがあります。
やはり新しい帽子の前には、空想を凝らさないといけません。
「イメージ・トレイニング」とでもいえば良いでしょうか。このイメージ・トレイニングによって、さらなる愛着が生まれるものですから。
さあ。森 瑤子がモーガンを走らせたように、帽子をかぶってみようではありませんか。