『帽子のオアオア物語』Vol.5 手作り帽子の物語|OVERRIDE
Journal

- Column

『帽子のオアオア物語』Vol.5 手作り帽子の物語

『帽子のオアオア物語』Vol.5 手作り帽子の物語

「紳士」はもう古くなってしまった言葉なのでしょうか。私などは今でも「紳士」に憧れるほうの人間なのですが。

もしも、ほんの少しでも「紳士」に興味がおありでしたなら。あるいはもっと積極的に「紳士」になりたいなら、ソフト・ハットをかぶることです。

れっきとしたソフト・ハットを、れっきとかぶって、「紳士」でないふりをするのは、難しい。「紳士帽」とはなんとまあ良くできた言葉だろうと、感心する瞬間であります。

少なくとも、スーツを着て、ネクタイを結んだなら、ソフト・ハットをかぶりましょう。ソフト・ハットとは、「中折れ帽」のことに他なりません。

とにかくスーツの着こなしは中折れをかぶってこそ完成するのですから。


「ライトグレーの手作りの中折れ帽子を目深にかぶり………………」


ジェラルド・ポスナーが、1989年に発表した『陰謀のKー7』の一節に、そのように出ています。

これは英国の秘密諜報部員の姿。1989年頃でもやはり、ソフト・ハットをかぶっているのですね。

とにかく秘密諜報部員は怪しまれてはいけない職業ですからね。「紳士」であるに越したことはない。

ところで、「手作りの中折れ帽子」とは、なんでしょうか。まあ、ひとつには、高級帽子であることを、強調したかったのでしょう。

すでにご存じのようにソフト帽は、「型入れ」によって完成します。しかしさらに、名人が最後の「ひと撫で」したかのような帽子なのでしょう。

このように推理しはじめると、帽子の奥も深いものがありますねえ。