『帽子のオアオア物語』 Vol.4 謎のホンブルグ
謎には、なぞなぞもあれば、ミステリもあります。だいたいにおいて人間は謎を解くのが好きな動物です。
猫や犬が謎解きに夢中になった話は、あまり耳にしません。もし、人が謎に興味をなくしたなら、世界のミステリはどうなってしまうのでしょうか。
つまりは私、ミステリ好きのひとりなのであります。
たとえば、クロフツ。F・W・クロフツ。もちろん、フリーマン・ウイルズ・クロフツのことですね。F・W・クロフツといえば、フレンチ警部であります。事件の謎解きをするのが、フレンチ警部。
フレンチ警部はホームズのような天才型ではなくて、努力型。地味に、コツコツと、推理を積み重ねてゆくタイプ。それもまた、人気の秘密なのでしょう。
クロフツの短篇に、『小包』があります。物語の時代背景としては、1930年代かと思われます。この中に。
「彼は、いつもきまって、ツイードの服を着て、ホンブルグ 帽をかぶっていた。」
という文章が出てきます。「彼」とは、スチュアート・ハスラーなる人物。ハスラーはわけあって、変装することに。
その変装のひとつが、ホンブルグ をボウラーに変えることなのです。これは、実に、名案。
それというのも、ホンブルグ が紳士の帽子であるのに対して、ボウラーは市民の帽子だったからです。
紳士階級の人間が市民階級の人間になるわけですから、変装が成功するわけであります。
これは実に小さいことです。でも、時が経つと忘れてしまいそうなので、ここに書いておきました。