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『帽子のオアオア物語』Vol.10 黒い帽子の話

『帽子のオアオア物語』Vol.10 黒い帽子の話

女の人には、黒い帽子がよく似合うものです。
「帽子は顔の額縁」
これはよく言われる言葉でしょう。どんな名画であっても額縁なしでは、その魅力も半減です。
同じように美しい顔には是非「額縁」に入れましょう。
ここで私はもうひとつめいげを加えたいと思います。

「帽子は顔の背景」

舞台での名優の演技。それも「背景」があってこそのものであります。背景によって演技が活きる。
たとえば黒い帽子をかぶることは、自分で顔の「背景」を作ることです。黒の背景での自分の顔。白い顔がいっそう白く見えるのも当然でしょう。それで、「帽子は顔の背景」なのです。

「黒い帽子じゃなくっちゃ」と彼は答えた。

1908年に、マンスフィールドが書いた『ロザベルの疲れ』に、そのような一節が出てきます。
これは若いカップルが帽子を選んでいる場面なんですね。
「ロザベル」は帽子店に勤める売り子という設定になっています。いろんな帽子が出てくる愉しい短篇でもあるのですが。
黒い帽子であろうなかろうと。美しい女には帽子が必要です。
だって、「背景」のない女優より、「背景」のある女優のほうが、はるかに演技もしやすいではありませんか。

出石尚三

出石尚三

服飾評論家、ファッション・エッセイスト。国際服飾学会会員。主にメンズ・ファッションの記事を執筆。著書も多数。60年代にファッション・デザイナー・小林秀夫の弟子となったのが、メンズ・ファッションの道に入った最初。幼少期からお洒落好き。好きな作家はサマセット・モーム。好きな画家はロートレック。好きな音楽家はショパン。好きな花は薔薇(ばら)。好きな色はピンク。好きな言葉は「夢」「希望」「愛」。昔の服からふっと新しいアイデアを頂くこともある。