『帽子のオアオア物語』Vol.11 セイラー・キャップの話
セイラー・キャップといえばいいのか、ヨット・キャップといえばいいのか。
また、マリン・キャップともキャプテン・キャップとも言います。前庇のついた船乗りにふさわしい帽子のことです。
これだけ名前が多いのは、それだけ愛されているからに他なりません。事実、マリン・キャップは、応用範囲の広いものであります。私は、旅に出るにはたいてい、ヨット・キャップを携えることにしているのです。
キャプテン・キャップなら、たいていの上着やコートに合わせられるからです。
多少の雨風なら、傘がなくても平気ですし。
セイラー s a il or は、セイル s a il と関係があるのでしょう。セイルは、「帆」ですから、帆船の時代からすでにセイラー・キャップはあったのかも知れません。
今の船はたいていエンジンが原動力ですから、セイラー・キャップとは無関係。そんな屁理屈を並べても仕方ありません。
伝統は伝統で、今なお、船長にはキャプテン・キャップが似合うことになっています。
「サージの上着にフラノの白ズボン。水夫帽をかぶった男が、下船する男たちをいちいちながめていたが………………………」。
1931年に、ディクスン・カーが発表した『髑髏城』に、そんな一節が出てきます。
これは物語の語り手、ジェフリー・マールを、港まで出迎えに来た男の様子。
場所は、ベルギーになっています。少なくとも、1930年頃のベルギーでは、セイラー・キャップが珍しくなかったことが分かるでしょう。
セイラー・キャップも多くの帽子と同じく、思い切って傾けるのが、コツのコツであります。